8月句会投句一覧
兼題の部(秋暑し)
1秋暑し公民館の自習室2秋暑し犬の遠吠え救急車
3秋暑し富士泰然としてゐたり4早口の首相の詞秋暑し
5捨舟に潮満ち寄せ秋暑し6新しき台風の報秋暑し
7秋暑し飛行機雲の崩れゆく8転がして片す円卓秋暑し
9秋暑し湖を見つめる地蔵かな10餌を奪ひ合ひをる鴉秋暑し
11秋暑し木の葉かえりて水車塚12秋暑し登校の子の長ズボン
13腰伸べて欠伸して老ゆ秋暑し14ぐんにやりと街ねぢ曲る残暑かな
15彫り深き男優の顔秋暑し16デスクワークする暇なくて秋暑し
17秋暑しヌード雑誌の落ち道18秋暑し祭りのあとの眠り猫
19秋暑し衣の雲を脱ぎし富士20一病にまなこ窪みて秋暑し
21包丁の研ぎ確かめる秋暑光22秋暑しかけては外す保護めがね
23金屑に光る油や秋暑し24秋暑し期待通りのBB賞
25秋暑しGフアンの中一人いて26神苑の手水冷たき秋暑かな
27かん高き旋盤の音秋暑し28秒針の時には狂ふ残暑かな
29秋暑しトルコカレーの香辛料30引く波に足跡消えて秋暑し
31立たされし廊下の記憶秋暑し32秋津島どこもかしこも秋暑し
33秋暑し黒ネクタイは忍ばせて34秋暑し道路に唸る掘削機
35基地のフェンスばら線熱し秋暑し36半開きの鴉の嘴や秋暑し
37厠てふ孤独の部屋の秋暑し38浮き玉の転がる漁港秋暑し
39秋暑し狂ひしままの花時計40浜茶屋の少し傾いで秋暑し
41鈍色に波のうねりて秋暑し42つい口の滑りし小言秋暑し
43秋暑しカタログ雑誌の持ち重り44秋暑し肋つぎ足す恐竜展
45秋暑しれんげしょうまの山登る46秋暑し牧舎に並ぶ牛百頭
47秋暑し年金おろす列長し48寝返りを何度も打ちて秋暑し
49先斗町上ルや京の秋暑し50開け放つお堂の扉秋暑し
51無人駅波立つホーム秋暑し52秋暑しまぶしき漁網干されたる
53海色の風吹く渚秋暑し54ナナカマド実の青くあり秋暑し
55秋暑しペットボトルが手放せず56残したる扉の手相秋暑し
57気に染まぬ夫婦茶碗や秋暑し58顔出しパネルに顔出し秋暑し
59信号の向かうも秋暑蠢きて60秋暑し飯盒飯の焦げ多し
61バスに乗る喪服の一団秋暑し62饒舌な電話長々秋暑し
63秋暑し昨夜(よべ)の盛り塩崩れ果て64草刈りの余力わずかや秋暑し
65秋暑しペダル重たき夜勤明け66秋暑し喉ぼとけの飛び出して
67小説のドストエフスキー秋暑し68秋暑し道路を渡る時の塵
69夕刻の汽笛の長く秋暑し70秋暑し廃工場のこぼれ釘
自由題の部
71古希近き灯火親しむ四畳半72空蝉や脱衣場なくて竹箒
73露草の露の光をいとほしむ74カフェテラス切子に注ぐカプチーノ
75原爆忌飛球飲み込む蒼き空76天高しビル屋上の貸農園
77炎天に送電塔の仁王立ち78床臥せの祖母に見せやる薯の花
79手を合せ無沙汰を詫びて墓洗う80巡り行く廃線跡や月見草
81古池や夕を集めて蝉しぐれ82風孕む丘一面の秋桜
83灼くる碑や戦没墓碑の深みどり84太陽の氷結したる原爆忌
85枝豆の莢の分だけ愚痴を聞く86村長に続き校長盆踊
87渡り鳥飛び立てばもう一直線88部活の子朝霧蹴って走りゆく
89一滴の露にはじまる大河かな90声上げて子等の観察るりとかげ
91網戸なかカーテン透ける手内職92美術館からまる蔦の青々と
93七夕の願ひ撓に笹飾る94朝寒や今日の日課の一つ減り
95折りたたみ傘不要なる夕立かな96日々生まる朝顔見つつ朝の路
97黙祷の球児や八月十五日98早暁に鵙の声聞く古刹かな
99万華鏡覗き回せば銀河めく100昼の月少し下向く夏椿
101爽やかに口では妻に負けておく102町名の此処より変わる猫じゃらし
103雷鳴や何か怒られそうな気が104原爆忌途切れなく蝉鳴きにけり
105雁渡しディープインパクトの訃報106誰一人出会はぬ里の墓参かな
107座りなば書斎に残る暑さかな108秋暑し浜は流木積み上げて
109かなかなやふとはは恋しちち恋し110蟋蟀の棲まふスナック客一人
111遠富士の真青(まさお)に見えて野分晴112豊作の秋茄子嫁に食はしけり
113展示物となりしデゴイチ鰯雲114妍競ふ青瓢箪の括れかな
115松葉牡丹色とりどりや子の来る日116夜もすがら寝床に聞くや虫の声
117八月や思ひ出すこと多かりき118ナイターやマニキュア光る捕手の爪
119空蝉のそこにちひさき穴一つ120銀河へと闇の中行く終電車
121団栗の選りすぐらるるやじろべえ122漁具洗ふ焦げ茶の腕や秋旱
123不在神(ゴドー)待つ女人高野の曼殊沙華124色づきしひと枝のありナナカマド
125寺町の甍に残る暑さかな126病抜けし八十路の遊ぶ秋のパリ
127病床の母へ葡萄の三粒ほど128甘き汁肘まで流れ桃啜る
129着飾りて六腑に落す秋うらら130放牧の戻らぬ羊大夕焼
131新秋や赤いバイクの郵便婦132無防備に眠る番犬夏休
133カンナ咲く元町役場今は支所134ストレスも花火と共に消す夜空
135縁の下の砂さらさらと蟻地獄136カクテルのようなちゅら海雲の峰
137知ることは別れに似たりおけら鳴く138螳螂何覗き込む草の闇
139急勝に鳴く蝉気怠く唸る蝉140さわやかや夜陰に遊ぶ猫の声
141懐かしき山河ありけり秋あかね142鱧の骨そ知らぬ顔やうちのたま
143縁に座し無我の境地に秋の風144連山の陰を濃く曳く秋の湖
145田の間縫ふ水路の細き風の盆146銀行の待合室の夏寒し
147キャンプ場芝に大の字星月夜148工事灯明滅長し炎暑かな
149夜明けまで下駄の歯減らす盆踊り150八月や傷痍軍人思ひ出す
151待宵の風がうれしい月一つ152ていねいに三食食べて生身魂
153溝蕎麦の花咲きかくす橋袂154ゆらゆらり波のうゑなる十日月
155向日葵の厚き絵の具やゴッホ展156アルバムの日の丸黒し終戦日
157乙姫も宴のさなか望の潮158穴惑い糸ほつれ出る古い靴
159朝霧や雫一滴山動く160阿波踊り夢に亡き母手足振る
161土地つ子の姫女苑と言うよろしさよ162蕎麦の花信濃の地へと誘う風
163ビル群を背ナに晩夏の佃煮屋164天高し両手に運ぶ資源ごみ
165強冷で夜具ひつかぶる不肖の子166背伸びして笹へ短冊星祭
167棒のごと地を貫くや大夕立168どんと座す開聞岳や鷹渡る
169天の川挟み時空を平行す170無住寺に仏弔う白き百合
171銀閣に日照雨の雫秋の虹172窓開けてやっと秋風お出でませ
173ただぼうっと未熟な老いの夕端居174ビックバンの欠片散らして天の川
175夏草深し下校路の秘密基地176夜の秋ワインレッドのグラス振る
177ひさびさの夜の銀ブラ天の川178墓所に置くシェードパラソル七七日
179炎昼や疲れきったる影つれて180古傷の跡や岩風呂せみしぐれ
181宿題をやり残しては八月尽182秋の蝉今日の命をしぼり鳴く
183台風圏令和八月十五日184底紅や往時残れる四脚門
185行先の別るるところ雲の峰186新しき家並みの見ゑて威銃
187昭和めくアルミの匙のかき氷188天然の鮎の見分けを聞く夕べ
189茅葺の住む人見ゑず立葵190勝ち負けて涙の球児夏終る
191虫時雨主探しの忍び足192白日の鴫の抜き足差し足や
193蝙蝠や万の蜂起の恐るべし194霧深し夏に倦む山起き出さず
195尾瀬沼もキスゲの揺れる頃となり196寄り添ふて生る団栗の三つ四つ
197美容師の鋏秋気の澄みし音198帆柱に等間隔のいわし雲
199山羊鳴きて霧に溶けゆくブルドーザー200草原に月色の川月見草
201初秋の新装開店セールかな202空つぽの虫籠抱へ戻りけり
203駅員は人身事故と告げ炎暑204夏休み終わる宿題父任せ
205ふるさとや真白き菱の実の甘さ206非通知の携帯鳴りぬ夏薊
207夕飯の献立迷ふ秋来る208幹に居て亀虫色が同化して
209彼岸まで続く径や彼岸花210さわやかや夜陰に乗じて風攫う
〔選句方法〕

下の〔草ネット投句〕ボタンから送信するようにお願い致します。
「選句」を選び、兼題より1句、自由題より2句の計3句を選択し、
都道府県名・氏名(俳号可)を明記の上、「送信する」ボタンを
押してください。

選句〆切:9月27日(金)、発表は9月30日(月)に行います。

なお、一部の漢字はネット上では正しく表記されず、
「?」で示されますので、読みを入れてあります。
        
7月句会結果発表
兼題の部(日盛)
作 品 互選 選者選 都道府県 作者
41容赦なき解体工事日の盛5岐阜県色即是句
40人影のなき日盛の築地塀4神奈川県風神
39無言館の黙深くして日の盛3千葉県みさえ
28公園に子らの声無き日の盛3東京都一八
3日盛りの古都ゆるやかに人力車3埼玉県アポロン
37早打ちの応援太鼓日の盛り3三重県正耕
43日盛りの一歩踏み出す勇気かな3大阪府レイコ
49石亀の微動だにせぬ日の盛り3埼玉県夜舟
1百号の裸婦の油絵日の盛2栃木県垣内孝雄
14母の肩少し痩せたる日の盛2大阪府でぷちゃん
18日盛りの舗装に影の貼りつきぬ2京都府せいち
20馬車道を曳く日盛の人力車2神奈川県ひろし
30日盛やまだ鳴りやまぬ警報器2神奈川県ドラゴン
45日盛りに子らの行列水飲み場2東京都一寛
54日盛の砂丘転がる風の音2福岡県えつこ
64日盛りの南京町をただ歩く2愛媛県牛太郎
67日盛りや影の行く先探しけり2千葉県鳥越暁
65日盛やヒールのしずむアスファルト1滋賀県和久
11日盛やひとり道路のゴム剥がし1愛知県ななな
8日盛りのアスファルトに死すミミズかな1東京都梅花
9日盛やたゆむことなき蟻の列1千葉県えだまめ
10ものの影乾くがごとし日の盛り1埼玉県祥風
16日盛や自販機唸る道の駅1静岡県かいこ
17日盛や先の曲がりて種胡瓜1三重県倉矢 幸
21檻の虎隅に居並ぶ日の盛り1愛知県丸吉
22日盛やたゆむことなき蟻の列1千葉県えだまめ
24売り出しのマンション寂と日の盛り1岐阜県小太郎
33日盛に吾考える石となり1兵庫県柴原明人
36日盛りや人影も無き尼の寺1奈良県文義
46日盛りの投射揺らめく川の岩1沖縄県繭子
51飴切りの音乱るるや日の盛り1神奈川県毬栗
52日盛やよき人の骨拾ひたる1神奈川県志保川有
56日盛りの営業マンの背広かな1千葉県相良 華
57校旗手の踏ん張りどころ日の盛1神奈川県横坂 泰
61日盛や猫の昼寝は縁の下1三重県穂のか
62日盛りや走る園児の汗とびて1千葉県畑博
68日盛や甘味処の和服連れ1長野県幸々
69日盛や水垢離の堀干上がれり1静岡県こいちゃん
自由題の部
作 品 互選 選者選 都道府県 作者
90ガリバーの気分で覗く蟻地獄6京都府せいち
201青すすき風の気配を活けにけり6神奈川県横坂 泰
151言ひづらきこと言ふ前の団扇かな5東京都小石日和
172伸び代のまだある余生冷奴5東京都一八
103心ばえ違う双子の夏帽子5愛知県さと
106まづ音の聞こえて滝の雄姿かな4埼玉県グレイス
136片陰を繋ぎて次の札所まで4愛媛県牛太郎
162風涼し小さき豆腐屋残る町4京都府せいち
197船宿の昼酒となる土用浪4福岡県みつぐ
102引く波の沖に広ぐる夏の色3神奈川県ドラゴン
210黒南風や鉄扉を閉ざす鈍き音3静岡県さくら
149供養墓参る人あり芥子坊主3大阪府宮下 英範
92今年また空家の増ゆる帰省かな3神奈川県ひろし
95足下より暮れてゐるなり踊かな3北海道三泊みなと
191ケルン積む夫の声してもう一つ3大阪府椋本望生
198岩苔の膨らみ落つる清水かな3福岡県えつこ
199開け放つ家中の窓梅雨明くる3熊本県蕗の薹
108一斉といふは恐ろし蝉時雨2奈良県文義
79連れ立ちて晴れ間にワルツ梅雨の蝶2東京都小石日和
88梅雨明けを待つ鳩の声くぐもりて2静岡県かいこ
91炎昼や預金残高確かめる2京都府しげお
98夕立ちに暫し息つく蝉時雨2東京都山本一二三
107山椒魚太古の光目に宿し2奈良県陶生
109大寺の甍を越へて夏木立2三重県正耕
112天球の軸の傾く暑さかな2神奈川県風神
113小流れに裸足楽しむ子どもかな2岐阜県色即是句
115早朝の風を孕みて蓮の花2大阪府レイコ
122鷹の爪入れて大人の胡瓜揉2千葉県須藤カズコ
127鳴き交はす声か谺か閑古鳥2熊本県蕗の薹
131国宝の鐘鳴らしゆく夏の蝶2福岡県蛍川
174眠る子に大きな影よ砂日傘2神奈川県ドラゴン
193かちわりを置きて簾の風を待つ2埼玉県夜舟
194凌霄の花の色散る芭蕉句碑2千葉県須藤カズコ
110竿の先川鵜顔だす相模川1神奈川県兼行子
73蝉の声森にけなげな美術館1栃木県垣内孝雄
74沙羅の花余香添へ落つ宇治の恋1兵庫県サチコ
75梅雨明けや風にのる雲いきいきと1埼玉県アポロン
78厄日かな眼鏡のネジを締め直す1滋賀県正男
80梅雨寒の一人ふとんは海の中1東京都梅花
85夏祭り屋台の娘大人びて1大阪府藤岡初尾
93夏草に麒麟一日の在るごとし1愛知県丸吉
94梅雨寒や街を静めて小糠雨1千葉県えだまめ
96若竹や鼓笛の指揮棒振る園児1岐阜県小太郎
100秒針は戻せぬ命夏惜しむ1東京都一八
101グラビアは妻の新車とアマリリス1北海道篤道
118からだじゅう滝に突つ込む夏休み1沖縄県繭子
120蓮浮き葉奏でし雨のピアニッシモ1千葉県光雲2
132胡瓜切り塩をまぶすや梅雨あがる1高知県稚児車
138沙羅の花落ちて地上の白灯火1静岡県さくら
145夏の日に宙に舞ひ上ぐブーケかな1栃木県垣内孝雄
153閑かさや落ちつまた咲く夏椿1千葉県えだまめ
156子の髪の汗の匂いの愛しさよ1福岡県葉室緑子
157校庭の草すくすくと夏休み1大阪府藤岡初尾
159煮かぼちゃの冷えて染み入る甘さかな1千葉県あけび庵
160明け易しくたかけの鳴く鄙の里1静岡県かいこ
165陣跡や梅雨雷の関ケ原1愛知県丸吉
175男の子ひとり缶ける夏休み1愛知県さと
176鹿の子や物言わぬ目の静かなり1新潟県はるひ
179洗ひ髪風に梳かせて他人めく1奈良県陶生
180夏帽子似合うかと問い出て行きぬ1奈良県文義
195麻酔醒めたかまりゆきし蝉時雨1神奈川県毬栗
200甚平のご隠居話す武勇伝1千葉県相良 華
207行け行けど大夕焼けに近づけず1北海道千賀子
208老鶯のささやくやうに鳴く朝1愛媛県牛太郎
215ビルの壁叩く人あり熱帯夜1千葉県大信
216フェイスギャグてふ言葉あり明け易し1愛知県いきか
選 評 選者:草の花俳句会 副主宰 鈴木五鈴(すずきごれい)

《兼題の部:日盛》

★無言館の黙深くして日の盛

一度行くと必ず詠みたくなる場所の一つが無言館。無言館だけで一句集を成した俳人が居るとも聞きます。
作者もいたく感動されたようです。戦争の悲惨さ、命の尊さへの思いに「黙深くして」館を出られたようです。
中には涙ぐまれている方もおられるようです。しかし、外は何事もなかったかのような日常、そして「日の盛」。
強烈な夏の日差しを受け止めながらも作者は、悠久なる自然と愚かなる人事に思いを馳せているのでした。

◎人影のなき日盛の築地塀

このごろは町中で築地塀を見かけることは少なくなりました。城下町の名残の路地や寺町界隈に限定されつつあ
ります。その日盛。最も夏の日差しが強い時間帯。特別な用事がなければ誰でも外出はしたくありません。
「人影のなき」は実に良く分かります。しかし、この当たり前の情景が、光と影を取り込んだ映像としてしみじ
みと見えてくるのはどうしたことでしょうか。地味ですが良い句です。

◎日盛やヒールのしずむアスファルト

 ヒールではなく、普通の靴でも、皆さん体験されているのではないでしょうか。暑さに緩んでいるアスファルト。
子供の頃は、そんなフワフワのところをわざわざ選んで踏み歩いたものです。ヒールではきついですね。まさに
「日盛」での出来事でした。


《自由題》

★引く波の沖に広ぐる夏の色

「夏の色」ってどんな色なのだろう、と読者は想像します。押し寄せる波の穂は「白」、浜辺へと泡立つように
消えていきます。しかし詠まれているのは「引く波」。その波が「夏の色」を「沖」に広げている、と作者は詠ん
でいるのです。深い紺碧系か…。この色は読者それぞれがイメージすればいいのです。巧みな「夏の色」でした。

◎言ひづらきこと言ふ前の団扇かな

「言ひづらきこと言ふ」と決めた瞬間、なぜか何かを掴みたくなるようです。掴むものがなければ拳を握るのが人
の常。言い難きことを言う場合に、やはりどこかに力が入るものなのでしょうか。作者は団扇を握りしめました。
もちろん扇ぐためではありません。でも団扇程度の内容なのでほっとします。平和的ですね。

◎黒南風や鉄扉を閉ざす鈍き音

梅雨時に吹く南風。蒸し暑く陰鬱な気分にさせられます。そんな時に聞こえてくる「鉄扉を閉ざす鈍き音」。
近くに工場でもあるのでしょうか。ますます陰鬱な気分が募るようです。「陰+陰」という滅入るような取り合わ
せですが、作者の気分の反映でもあったのでしょう。

添削(ランクアップのために)

 今月は、兼題「日盛」を、概ね七割の句が上五に用いられました。さらにその六割の句は「や」で切られていた
のです。そこで今回はその「や」にも一部焦点を当ててみることにしました。参考になれば幸いです。

・日盛りに川面きらきら反射光 → 日盛りの川面きらきらしてゐたる

作者は「日盛りの川面」を眺めています。そしてその景を「きらきら」と感じたのです。明らかに一句の主役は
「日盛りの川面」であって、「日盛り」そのものを詠んだわけではありませんね。状況・背景を示す助詞「に」が、
この句の場合如何に相応しくないか、ということを感じていただければと思います。もちろん、句としても「きら
きら」があれば「反射光」は要りませんね。

・日盛りに子らの行列水飲み場 → 子らの行列日盛りの水飲み場

この句も、前の句と同様「日盛りに」の「に」が問題となります。やはり一句の焦点は「日盛りの水飲み場」に
あるはずなのです。そこに集まっている「子らの行列」。作句の際、何を詠みたいのかを明確に自覚されるよう
願いたいものです。

・日盛りや野道に続く天主堂 → 野道に続く日盛りの天主堂

元の句には表現技術上の問題がある訳ではありません。「日盛り」という、最も夏の日差しが強い時間帯であると
いう事実を切字「や」で詠嘆しました。そして作者から見える天主堂を写生したのです。絵としては一見描けてい
るようですが、主役であるはずの「日盛り」は「や」で切り離してしまったためか見えてきません。ここも前の句
と同様「日盛りの天主堂」として、光と影の天主堂をしっかりと見せるべき所でした。
「や」はとても難しい切字なのです。切るべきか切らざるべきか十分に検討の上お使いください。

        
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