兼題の部(秋刀魚) | |||||
作 品 | 互選 | 選者選 | 都道府県 | 作者 | |
19 | 一言を悔やみつつ焼く秋刀魚かな | 5 | ◎ | 茨城県 | 申 女 |
29 | 被災地の海より届く初秋刀魚 | 5 | 岐阜県 | 色即是句 | |
44 | 太筆の手書きの札や秋刀魚買ふ | 5 | 三重県 | 正 耕 | |
5 | のびのびとはみ出している秋刀魚かな | 4 | 東京都 | 健 一 | |
1 | 秋刀魚焼く勝手口より浪人生 | 3 | 滋賀県 | 百合乃 | |
45 | 見慣れたる妻のうなじや秋刀魚焼く | 3 | 東京都 | 一 八 | |
64 | 駐在のさんま焼く間を待たさるる | 3 | 滋賀県 | 和 久 | |
69 | 病室の外は日常秋刀魚焼く | 3 | 熊本県 | 蕗の薹 | |
56 | 北方領土未だ帰らず秋刀魚焼く | 2 | ★ | 福岡県 | 蛍 川 |
18 | 秋刀魚焼く田んぼに夕日落ちる頃 | 2 | ○ | 埼玉県 | 祥 風 |
71 | 七輪も遺品の一つ青秋刀魚 | 2 | ○ | 北海道 | 三泊みなと |
4 | しみじみと時を思うて秋刀魚焼く | 2 | 栃木県 | 垣内孝雄 | |
6 | じゅうじゅうと秋刀魚皿からはみだしぬ | 2 | 東京都 | 小石日和 | |
10 | 角皿を真一文字に秋刀魚かな | 2 | 京都府 | せいち | |
20 | 屹然と秋刀魚の口の尖りたる | 2 | 東京都 | カツミ | |
23 | 骨一本形を残す初秋刀魚 | 2 | 埼玉県 | 郁 文 | |
41 | 瀬戸焼の織部の皿や秋刀魚焼く | 2 | 岐阜県 | 小太郎 | |
58 | 七輪に火花七彩初秋刀魚 | 2 | 静岡県 | さくら | |
66 | 復興の兆しか秋刀魚棚並ぶ | 1 | ◎ | 北海道 | 千賀子 |
15 | マンションの煙を立てぬ秋刀魚かな | 1 | 埼玉県 | 夜 舟 | |
28 | 初秋刀魚われは生き延び食みにけり | 1 | 兵庫県 | 大谷如水 | |
31 | 秋刀魚焼く香りと煙に身を置いて | 1 | 奈良県 | よりみち | |
32 | 大洋を泳ぎきったる秋刀魚かな | 1 | 大阪府 | 光吉元昭 | |
33 | 刺し網に光跳ねたる秋刀魚かな | 1 | 神奈川県 | ドラゴン | |
34 | 新所帯秋刀魚は皿をはみ出して | 1 | 埼玉県 | グレイス | |
43 | 晩成と言いきかせつつ秋刀魚焼く | 1 | 神奈川県 | 毬 栗 | |
46 | 秋刀魚売る三陸弁の活気良さ | 1 | 愛知県 | さ と | |
47 | 秋刀魚皿尻尾あたりに余白あり | 1 | 神奈川県 | 横坂 泰 | |
53 | 焼秋刀魚まずは腸より食す | 1 | 福岡県 | みつぐ | |
59 | 瞼なき秋刀魚の目焦げ夕間暮 | 1 | 高知県 | 稚児車 | |
68 | 水中の流星群や秋刀魚とぶ | 1 | 兵庫県 | ケイト | |
73 | 秋刀魚食べ明日の計画検討す | 1 | 愛知県 | いきか | |
74 | へばりつく暮し冷凍サンマ買ふ | 1 | 兵庫県 | ぐずみ | |
自由題の部 | |||||
作 品 | 互選 | 選者選 | 都道府県 | 作者 | |
171 | 農業をやむると添へて今年米 | 6 | 神奈川県 | ひろし | |
188 | 豊年や子を抱く嫁の力瘤 | 5 | ★ | 岐阜県 | 近藤周三 |
93 | 夫婦して席譲らるる小春かな | 5 | 茨城県 | 申 女 | |
115 | 長き夜や表紙の褪せし母子手帳 | 5 | 岐阜県 | 小太郎 | |
204 | 天高し棟梁弾く墨の糸 | 5 | 静岡県 | かいこ | |
94 | 客人としてふるさとの秋祭 | 4 | 東京都 | カツミ | |
111 | 乱れ萩風の起点となりにけり | 4 | 神奈川県 | 風 神 | |
215 | 盆栽の一花のごとく秋の蝶 | 4 | 広島県 | 一 九 | |
159 | 大根煮る静かな雨の音の中 | 3 | ◎ | 京都府 | せいち |
129 | 捨てられし山の畑や赤まんま | 3 | ○ | 静岡県 | かいこ |
80 | いつまでも旧姓で呼ぶ返り花 | 3 | 東京都 | 小石日和 | |
83 | カレンダーめくり呼び込む秋の風 | 3 | 千葉県 | えだまめ | |
184 | 繋げたき記憶の隙間赤蜻蛉 | 3 | 三重県 | 八 郷 | |
207 | 鎮もれる深山の秋の水鏡 | 3 | 長野県 | 倉田杏 | |
219 | 見得を切る菊人形の男ぶり | 3 | 熊本県 | 蕗の薹 | |
100 | お土産にもみじ葉一つ手のひらに | 2 | ◎ | 栃木県 | あきら |
95 | ぐい呑に歪みを見たり冬隣 | 2 | 奈良県 | 陶 生 | |
99 | 自然薯掘るここが我慢のしどころと | 2 | 三重県 | まがたまいけ | |
103 | 老い猫の膝に乗りくる夜寒かな | 2 | 岐阜県 | 色即是句 | |
107 | 速度上げ釣瓶落しの帰漁船 | 2 | 神奈川県 | ドラゴン | |
112 | 彼の人と見紛ふ釣瓶落しかな | 2 | 長野県 | 幸 々 | |
119 | 箒目に足跡ひとつ秋時雨 | 2 | 東京都 | 一 八 | |
155 | 再会の約束メール菊日和 | 2 | 東京都 | 小石日和 | |
172 | ズボン干すぽとりと落ちる木の実かな | 2 | 埼玉県 | 郁 文 | |
183 | ついと逃げついと戻りて赤蜻蛉 | 2 | 埼玉県 | グレイス | |
193 | 街の灯の煙りて冬の始めかな | 2 | 三重県 | 正 耕 | |
208 | 落葉踏む音は木の声山の声 | 2 | 静岡県 | さくら | |
114 | 鴨来る小川の流れけふ荒き | 1 | ○ | 三重県 | 礼 香 |
135 | 私らしく生きてみたしや秋深む | 1 | ○ | 北海道 | 小 幸 |
216 | 雪虫の飛んで力の緩みけり | 1 | ○ | 北海道 | 千賀子 |
76 | 歩き疲れ花野に溶けてゆく妻子 | 1 | 滋賀県 | 正 男 | |
79 | この径が好き星たちの言葉聞き | 1 | 東京都 | 健 一 | |
81 | 来し方をふと顧みる虫の夜 | 1 | 埼玉県 | アポロン | |
85 | 台風去る庭に鍋釜残し去る | 1 | 長野県 | 宮澤俊幸 | |
87 | 秋晴や金閣燦と輝きて | 1 | 奈良県 | 文 義 | |
88 | 長き夜独り解いてく詰将棋 | 1 | 愛知県 | コタロー | |
89 | 芋虫は羽化の呪文の糸を吐く | 1 | 埼玉県 | 夜 舟 | |
92 | 長き夜の灯消えぬナース室 | 1 | 埼玉県 | 祥 風 | |
101 | 罪深き衣被よとまた一献 | 1 | 京都府 | しげお | |
105 | 流離の旅の泊りや虫時雨 | 1 | 奈良県 | よりみち | |
113 | 若く描く似顔絵画家や秋祭 | 1 | 岐阜県 | 近藤周三 | |
118 | 木犀の花の散り敷く今朝の道 | 1 | 三重県 | 正 耕 | |
120 | 小鳥来る友の遺句集繰る側に | 1 | 愛知県 | さ と | |
122 | 秋晴や浦風孕む帆引船 | 1 | 千葉県 | みさえ | |
123 | 秋蝶の遊び呆けし墓石かな | 1 | 栃木県 | 荒川三歩 | |
124 | 金木犀雨に打たれる落花の輪 | 1 | 東京都 | 山本一二三 | |
126 | 柿千個おちて十個の朱々(あかあか)と | 1 | 神奈川県 | 志保川有 | |
128 | 友禅を銀河の帯へ流しけり | 1 | 千葉県 | 光雲2 | |
133 | 月光の照らす芝生の白ベンチ | 1 | 静岡県 | さくら | |
136 | 新涼や両手で掬ふ川の水 | 1 | 愛媛県 | 牛太郎 | |
138 | 曼殊沙華三本ゆれる風の道 | 1 | 千葉県 | 畑 博 | |
150 | 女郎花湯宿の旦那愛想よく | 1 | 滋賀県 | 百合乃 | |
151 | 空缶のあっけからんと秋祭 | 1 | 滋賀県 | 正 男 | |
154 | 身のうちの鈴を鳴らして秋遍路 | 1 | 東京都 | 健 一 | |
157 | 曇り日こそなほ美しく沙羅の花 | 1 | 大阪府 | 藤岡初尾 | |
160 | 朝寒や診察券は擦りきれて | 1 | 長野県 | 宮澤俊幸 | |
162 | 金色をいまに紅葉の光堂 | 1 | 奈良県 | 文 義 | |
165 | 台風や顔見知りたる避難民 | 1 | 愛知県 | 丸 吉 | |
170 | 身に入むや父の遺愛の肥後守 | 1 | 奈良県 | 陶 生 | |
173 | 錦秋の谷に廃墟の温泉地 | 1 | 北海道 | 篤 道 | |
175 | 秋夜長焦れば足らぬ命かな | 1 | 栃木県 | あきら | |
177 | 石庭や流るゝ風に秋の声 | 1 | 兵庫県 | 大谷如水 | |
180 | 山深く妻恋ふ鹿の声悲し | 1 | 奈良県 | よりみち | |
185 | 一人居に家族の歴史柿熟るる | 1 | 千葉県 | 須藤カズコ | |
186 | 風の音残して帰る芒原 | 1 | 神奈川県 | 風 神 | |
190 | 秋晴や長病の髪カットせり | 1 | 岐阜県 | 小太郎 | |
191 | 雨上がり黒き雲間に秋夕日 | 1 | 三重県 | 穂のか | |
194 | 晩秋や立てかけてある竹箒 | 1 | 東京都 | 一 八 | |
197 | 雲間より一条の日矢千鳥飛ぶ | 1 | 千葉県 | みさえ | |
200 | 試みに呼べば答へる夜長かな | 1 | 兵庫県 | 柴原明人 | |
201 | 下の子の写真少なし運動会 | 1 | 神奈川県 | 志保川有 | |
205 | 烏瓜仏も遊ぶ日和かな | 1 | 福岡県 | 蛍 川 | |
206 | 声のする方は青空小鳥来る | 1 | 大阪府 | 椋本望生 | |
209 | 北欧の音色響けり十三夜 | 1 | 高知県 | 稚児車 | |
211 | 川底の石のそれぞれ水澄めり | 1 | 愛媛県 | 牛太郎 | |
214 | 村中の古き看板唐辛子 | 1 | 滋賀県 | 和 久 | |
選評 選者:草の花俳句会 副主宰 鈴木五鈴(すずきごれい) 《兼題の部:秋刀魚》 ★北方領土未だ帰らず秋刀魚焼く 北方領土問題の解決なくして戦後とは言うな、という声を多く聞きます。そこで生まれ育った人たちにとっては まさに故郷。いまだにしこりが残ったままの望郷の念。忸怩たる思いのまま「秋刀魚焼く」作者。 「秋刀魚にがいかしょっぱいか」の歌が、身のうちを駆けめぐるように聞こえてくるようです。今年は秋刀魚が 不漁だとは聞きますが…。 ◎一言を悔やみつつ焼く秋刀魚かな あんなことを言わなければ良かった、という後悔は誰にでもあることでしょう。はっと思っても後の祭り。後味の 悪さはいつまでも尾を引きます。普段は楽しみな秋刀魚も、こんな日は何故か煙ばかりが…。涙目になりながら、 またしても後悔の念に苛まれているのでした。 ◎復興の兆しか秋刀魚棚並ぶ 最近は自然災害があちこちで頻発しています。その災害を大きくしているのは、ひょっとしたら人間の知恵の拙さ かもしれませんが。それでもみんなして復興へと力を尽くしています。その「復興の兆し」の一つが「秋刀魚棚」 の存在だと作者は詠みます。少しづつ豊漁へと向かいだした秋刀魚漁への期待もあるのでしょう。 「秋刀魚棚並ぶ」がいかにも嬉しそうです。 《自由題の部》 ★豊年や子を抱く嫁の力瘤 逞しい「嫁」を愛情をもって見守っている作者。今年の豊作はこの嫁の力も大いに与っていたと微笑む作者。 「子を抱く嫁の力瘤」。とても素敵な表現に最大限の拍手を贈りたいと思います。弾けるような家族の笑い声まで 聞こえてきそうで楽しいですね。 ◎お土産にもみじ葉一つ手のひらに 良く見かける光景でもあり、自分でも何となく綺麗な葉っぱを拾い、栞にでもしようなどと思うことはあります。 そのことを実に素直に句にしました。そのせいかとても爽やかに読めるのです。このような句を読むと、俳句は 「捻る」べきものではない、と強く感じます。俳句はこれで良いのです。 ◎大根煮る静かな雨の音の中 大根を煮る音ばかりがぐつぐつと聞こえています。美味しそうな匂いが湯気と共に立ち上がっている光景が見えて きます。外は静かに雨が降り続いています。風呂吹きにでもするのでしょうか。穏やかな日常の一齣がやさしく 切り取られました。 添削(ランクアップのために) 今回は文法と切字の問題を取り上げてみました。なかなかややこしい部分があります。しっかりと身につけて いただければ幸いです。 ・菩提寺に詣づ間道薄紅葉 → 菩提寺へ参る間道薄紅葉 「詣づ(終止形)」では「間道」へつなげることはできません。ここは「詣づる(連体形)」でなければなりません。 すると中八で具合が悪くなります。ここは同意味の「参る」を使いましょう。これで問題は解消です。 ですが、もう一点。「菩提寺に」の「に」は、その場所を限定する助詞ですので、むしろここは方向を示す助詞 「へ」とすべきところでした。ご検討ください。 ・深川やはや秋色の閻魔堂 → 深川ははや秋色の閻魔堂 掲句は「深川や」と、先ず深川のイメージを読み手に喚起させ、「はや秋色の閻魔堂」へと焦点を絞り込む作りに なっています。しかし、果たして「深川や」はどんな働きをしているのでしょうか。深川と閻魔堂との関係が切れて しまって良いのでしょうか。むしろ「深川」と「閻魔堂」を一体のものとして詠んで欲しいと思いました。 「や」を「は」という係助詞に替えることで一句は一新されるはずです。ご研究ください。 ・ズボン干すぽとりと落ちる木の実かな → ズボンを干せばぽとりと木の実落ちにけり 切字は一句に一つを原則としています。その理由は、切字は一句の主役を指示する機能があるからです。主役が二人 では、劇の主題も分裂してしまう恐れがあります。掲句の上五は表には出ていませんが、「ズボン干すや」の「や」 が隠れているとみなされます。そこで一章句としての作りに替えたいと思います。参考にしてください。 |