10月句会結果発表
兼題の部(新蕎麦)
作 品 互選 選者選 都道府県 作者
28百年の振り子のひびき走り蕎麦15兵庫県毬 藻
12新蕎麦や村の移住者歓迎会14岐阜県近藤周三
5新蕎麦や馬刺も付いて小諸宿12滋賀県百合乃
13筆太の文字の貼り紙走り蕎麦9埼玉県桜 子
67割って入る暖簾の家紋走り蕎麦9三重県déraciné
4幸村の上田の城の走蕎麦5宮崎県黒木寛史
23新蕎麦や湧水めぐる城下町5神奈川県ひろし
42新蕎麦や妻とふたりの深大寺5栃木県垣内孝雄
44新そば来母のくせ字の手紙添へ5神奈川県毬 栗
7虚子に似てよく笑ふ客走り蕎麦4静岡県指田悠志
77新蕎麦を待つ間信濃の地酒酌む4神奈川県秋山由美子
1新蕎麦を告げる貼り紙紺のれん3千葉県えだまめ
18過疎村に新蕎麦の旗ひるがへり3静岡県えいちゃん
21外からの手打ち風景走り蕎麦3愛知県コタロー
32新蕎麦や尖り残せし回し水3神奈川県ドラゴン
46新蕎麦の打つ間預かる徳利かな3神奈川県横坂 泰
54新蕎麦を茹づる間合ひの鬼おろし3神奈川県みちを
56菊練りの手先鮮やか走り蕎麦3神奈川県梗 舟
59新蕎麦や少し遠出をしてみやう3愛媛県牛太郎
63新蕎麦や五風十雨の母許に3大阪府椋本望生
15新蕎麦や少女A役早四年2神奈川県たかほ
24新蕎麦や水車まどかな音放ち2石川県翡翠工房
25のれん分け香りくすぐる走り蕎麦2北海道水野幸子
33新蕎麦や祝ふ二人の五十年2愛知県み う
39新蕎麦の便り故郷無人駅2埼玉県夜 舟
55新蕎麦や宇治のせせらぎ古のれん2千葉県山 月
57新蕎麦や古民家梁の黒光り2埼玉県千葉美知子
60新蕎麦やいつもの席で箸を割り2北海道篤 道
65新蕎麦や遠路厭わず峠越ゆ2滋賀県原茂幸
72新蕎麦やもうすぐ伯父の七回忌2東京都浩 平
74永平寺詣での締めや走り蕎麦2神奈川県りゅう
81新蕎麦や烏羽色の通夜の皿2大分県晴田そわか
6新蕎麦のもてなし豊後国分寺1大分県牧野桂一
9村おこし爺の茹で上ぐ走り蕎麦1千葉県こごめ草
17走り蕎麦天城街道水奔る1静岡県彗 星
19湯がき汁添へて新蕎麦旅の店1京都府花 子
31秋蕎麦の香りも湯気の中にあり1千葉県あけび
34新蕎麦や祝開店日ジャズ流る1大阪府日野かぐや
36新蕎麦や開墾したる山畑1岩手県素 風
38新蕎麦を挽く安曇野の水車1神奈川県風 神
48新蕎麦のもり三杯をすすりけり1東京都水谷博吉
62新蕎麦に生きる望みを託しけり1兵庫県紀州鰹節
64走り蕎麦豪快に食ぶ信濃人1千葉県須藤カズ子
69新蕎麦やあの日あの時あの場所で1埼玉県イレーネ
70ポロックの画展逃れて新蕎麦へ1秋田県不知飛鳥
71新蕎麦や郷土に老舗百貨店1鹿児島県青 猫
73走り蕎麦季節のうつろいをすすり1埼玉県豊 楽
79新蕎麦や奥多摩巡りの一休み1神奈川県佐藤けい
自由題の部
作 品 互選 選者選 都道府県 作者
111一人来て風となりゆく花野かな15岡山県原 洋一
100やはらかき風のひとゆれ実むらさき10静岡県えいちゃん
149だんまりを決め込む夫や柘榴の実10三重県déraciné
119宣誓の二つの右手秋高し10岐阜県俳ネン
193口笛のまつすぐ伸びてゆく刈田10岡山県原 洋一
157蔓草の先より冬の降りてくる9静岡県渡邉春生
239野葡萄は天上の色けもの道9静岡県渡邉春生
118庭下駄の素足冷たき今朝の秋7岩手県素 風
170流木の動かぬ河口去ぬ燕5大分県牧野桂一
95家計簿の三行日記秋灯下5埼玉県桜 子
178秋ともしどの灯も人を待つやうに5京都府せいち
87コスモスはメトロノームに似て揺れて5滋賀県百合乃
125母と子のじゃんけん遊び秋うらら5奈良県よっこ
154秋雲を抜けて去りゆくプロペラ機5東京都浩 平
161逞しく生きる根性泡立ち草5神奈川県佐藤けい
176こころの荷ひとつ吹つ切り障子貼る5岐阜県近藤周三
197なだれ来てなだれ飛び立ち稲雀5愛知県み う
205かりんの実意志あるごとく落ちにけり5愛知県牧 子
216待つ人も無き故郷や百舌鳥(もず)猛り5千葉県光雲2
227七輪の埃は昭和さんま焼く5大阪府椋本望生
152途中まで言いかけたけど木の葉散り4秋田県不知飛鳥
196コスモスの揺らぎ故郷の日の揺らぎ4神奈川県ドラゴン
107朝顔の紺に著けきたたみ皺4北海道水野幸子
159露時雨街道沿ひの六地蔵4神奈川県秋山由美子
169藤袴無冠の夫に供えたり4滋賀県百合乃
172干柿の列なす壁を風抜ける4新潟県しーしー
173てにをはを持て余したり二十日月4千葉県こごめ草
179馬肥ゆる豚カツソースたっぷりと4神奈川県たかほ
189野ぶだうや六角形の観音堂4北海道水野幸子
240値段見て新米戻す子沢山4千葉県美 保
97爽やかや茶房の席は富士仰ぐ3神奈川県たかほ
96文化の日怪しき文語など使ひ3京都府せいち
99せかされて色づく柿のたわわなり3静岡県彗 星
102家を去る棺へ香り金木犀3滋賀県鶴亀鈍
109木犀の香り湧き立つ夜勤明け3東京都小石日和
110新蕎麦や武具飾りある奥座敷3兵庫県毬 藻
117AIに虚実不明やうそ寒し3滋賀県幸 亀
121荒走り塩一摘み添えてあり3埼玉県夜 舟
144病室のそぞろに寒き電子音3兵庫県紀州鰹節
148幼子の冬陽に翳す金平糖3茨城県申 女
163古地図を繙くほとり龍田姫3大分県晴田そわか
185雨粒を零さじと抱く草の花3愛知県コタロー
187長き夜や不協和音のフリージャズ3神奈川県ひろし
202蓑虫やこの世のことを垣間見る3神奈川県風 神
206小夜時雨橋の袂の小料理屋3栃木県垣内孝雄
223明日へと繋ぐ点滴風は秋3愛媛県牛太郎
241敷きつむる銀杏黄葉の切通3神奈川県秋山由美子
83八十路超え穏やかな日々鰯雲2千葉県えだまめ
91子規庵の朝顔淡き水の色2千葉県こごめ草
115曲がり尾の猫の戻りてゐのこづち2愛知県み う
116托鉢僧坐するひととき紅葉窓2大阪府日野かぐや
120吹く風に芒ひかりを靡かせて2神奈川県風 神
130肌寒や枕に残る児の温み2東京都水谷博吉
138熱気球色無き風に躍らされ2神奈川県梗 舟
145歩みては往けぬ黄泉路や後の月2大阪府椋本望生
146鳥の影なく穭穂の穂の揺るる2千葉県須藤カズ子
150芒の穂揺れて落日惜しむかに2兵庫県峰 乱里
174竿売りの声通り過ぐ片時雨2神奈川県阿部文彦
183新米や今朝仏飯の湯気香る2京都府花 子
188吾亦紅リゾット香るカフェの席2石川県翡翠工房
192品書きの墨あざやかや走り蕎麦2兵庫県毬 藻
199いつまでも見送る母や秋入り日2滋賀県幸 亀
209山萩や袂の濡るる乱れ咲き2神奈川県みぃすてぃ
228箪笥より羽織持ち出す夜寒かな2千葉県須藤カズ子
230鶏頭に情熱といふ花言葉2茨城県申 女
231フィナーレの怒涛は黙へ後の月2三重県déraciné
236桐の実や自転車を押す女の子2東京都浩 平
243秋夕焼へ向かって強くこぐペタル2神奈川県佐藤けい
89秋空や馬にもわかる野の広さ1静岡県指田悠志
92餓える子の嘆きの声や冬初め1神奈川県阿部文彦
93角に消ゆまで子見送る月夜かな1神奈川県遠野アルヒ
98露更くる一人住まいの黙深く1愛媛県海 猫
105手の平にさいの目切りの新豆腐1神奈川県ひろし
113径の草露に立濡れ塚の脇1千葉県あけび
114開け放つ青き鎧戸小鳥来る1神奈川県ドラゴン
122味噌汁を覗き込みたり鰯雲1茨城県西川富美子
126秋祭すみ又もとの過疎の村1神奈川県毬 栗
135拝むとて止まらぬ時や雁渡る1千葉県文 武
139派手好みひとり呟く衣更1埼玉県千葉美知子
140秋めいて湯のみ茶碗を取り落とす1神奈川県とん子
143秋日和書店のポップをちょと揺らす1奈良県魚楽子
151名月や佐渡金山を照らしけり1埼玉県イレーネ
155黄泉の入り口彼岸花の赤燃え1埼玉県豊 楽
156無月かな二階の宴の整ヘリ1神奈川県りゅう
158スーパーの値札見直す秋時雨1千葉県美 保
160ふくよかな陽を浴びてをりかりんの実1大阪府奥村かよん
166淋しげな季語に目が行く秋の暮1大阪府森 佳月
168コンバイン音高らかや天高し1宮崎県黒木寛史
180遠近にあがる火の手も曼珠沙華1愛媛県海 猫
181雨滴受け色満ちゆけり実むらさき1静岡県彗 星
190おもしろき山また山や蕎麦の花1大阪府藤井あつこ
203濁り酒茶碗の縁は少し欠け1埼玉県夜 舟
210裏山に紅葉かつ散る静寂かな1神奈川県横坂 泰
211秋晴れや思ひの丈舞へ女宰相1兵庫県瞳 人
212残菊を括りて終へる我が花壇1東京都水谷博吉
218秋の田を次男と巡り茣蓙の飯1神奈川県みちを
222うまさうにお隣の柿色づけり1神奈川県とん子
224暮れ早し老いて働く世の流れ1北海道篤 道
234柿剥きの長さ比べに負けてやり1秋田県不知飛鳥
238秋夕焼に溺るるやうに川下り1神奈川県りゅう
242秋の宵ジャズに重なり雨ひそか1大阪府奥村かよん
244わが肩に桜紅葉や散り急ぎ1広島県一 九
245しののめの星ふる忌明け鶴来たる1大分県晴田そわか
【選評】選者:草の花俳句会・同人会 服部 満

≪兼題の部:新蕎麦≫

★百年の振り子のひびき走り蕎麦

 まだ熟さず青みをおびている蕎麦を秋早めに刈り取って、その粉でうった生蕎麦が走り蕎麦、新蕎麦だ。
老舗蕎麦屋の景か。大黒柱に掛かる大きな振り子時計。懐かしくも今では貴重な振り子の音を聞きながら啜
る新蕎麦。美味しそうだ。走り蕎麦に端的に「百年の振り子のひびき」を配したことで読み手に想像の幅が
広がりました。

◎新蕎麦や馬刺も付いて小諸宿

 小諸の旅。小諸は城址の懐古園なども残る北国街道の宿駅。宿の夕餉に新蕎麦が出されたが、小鉢にも添
えられている。まさに信州の旅ならではのご馳走です。風味ある蕎麦と馬刺しを肴に一献かたむければ旅情
も増すに違いありません。晩秋ならではの献立でしょう。

◎新蕎麦や村の移住者歓迎会

 過疎化は地方で深刻な問題だ。首都圏などのアンテナショップで自治体が子育て世代の移住をPRする活
動や、移住した家族の暮らしなどがテレビのローカルニュースでも流れます。村に移住した人々の歓迎会。
新蕎麦を振る舞うところが魅力的です。その土地の収穫物である新蕎麦で、これから一緒に暮らして行こう
という村人の温かさが感じられます。
     
≪自由題の部≫

★流木の動かぬ河口去ぬ燕

 夏の間身近に飛んでいた燕も、秋になると海を越えて南に帰ってしまう。そんな燕の群れが通過する河口
上空。大きな川の河口には、海へ流れ込む川の水と打ち寄せる波で浅瀬ができたりする。ときには大木の幹
が根こそぎ流れ寄ることもあります。河口から海、空へ広がる広大な景の中に、去って行く燕の群れ。季節
が移って行く寂寥感が感じられます。

◎やはらかき風のひとゆれ実むらさき

 「実むらさき」は紫式部。山野に自生して、晩秋になると小さな紫色の実が群がって美しい。紫色の優美
な実を平安朝の才媛紫式部になぞらえて付けられたという。掲句は特別なことを言っているわけではありま
せんが、実むらさきの風情がよく感じられます。実むらさきのわずかな揺れに、柔らかな風を顔に感じたと
いう趣です。

◎だんまりを決め込む夫や石榴の実

 夫との間にどんないさかいがあったかは分からない。作者には怒りや不信が、夫には負い目や逃げなどネ
ガティブな感情がわだかまったのだろう。季語「石榴の実」が効いている。熟して裂ける果実と食べると甘
酸っぱい味。二人の間の微妙な心の模様と通じるところを感じてしまいます。

        
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